Q&A
動機づけ面接入門2022 Q&A
1. ①「あたかもその人のように」の捉え方がわからない、共感の理解を教えて頂きたいです。②誘導と引き出すの違いがよくわからないです。
- ①共感的理解についても、セミナーの方で簡単には触れるだろうと思います。すべての概念についてそうですが、単に説明のためにラベルが付けられているだけなので、厳密な定義や区別は難しいと思います。説明を聞いてよくわからないのであれば、あまり深く考えず、自分なりに理解しやすい説明を探す方が良いと思います。共感的理解は、何が違うかというと、「私があなたの立場なら~と感じます」というのは、共感的な理解ではないです。そうではなく、「私があなたなら~と感じます」ということです。しかし、実際に私はあなたではないので、私があなたならどう感じるかを理解することはできません。そこで、「私があたかもあなたであるかのように考えると~と感じます」ということになります。さらに付け加えると、共感的理解で大事なことは、共感的に理解することではなく、共感的に理解しようとしていることを相手に伝えることです。「私はあたかも私があなたであるかのようにあなたの体験を理解しようとしています」という態度が相手に伝わることが、共感的理解にとって重要な要素です。動機づけ面接の中では、「共感」は、MITI(https://codingtsubolabo.wixsite.com/coding-lab-for-miti/miti )の全体評価の中で評価されており、共感の再考評価は「臨床家は、クライエントの見解について、明示的に述べられていることだけではなく、クライエントがまだ言葉にしていないところの意味まで深く理解している証拠を示している。」となっています。
- ②誘導と引き出すの違いについても、概念としてわからないのであれば、それはそれでいいのではないでしょうか。大事なのは、MIとして何をすべきで、何をすべきではないかです。すべきなのは、チェンジトークを引き出すことで、すべきでないのはMI不一致行動(許可のない説得、直面化)ですね。その上で、一応、誘導と引き出すについて考えたいと思います。誘導というのは、動機づけ面接の枠組みだと、ガイドのことを言っているのだと思います。それでいうと、「指示⇔ガイド⇔追従」というコミュニケーションスタイル(様式)の連続体がありますね。MIでは、ガイド~追従を状況に応じて使い分けます。指示は使いません。ここでいうガイドというのは、案内したり、手引きしたりするイメージです。追従とは、クライアントに寄り添って、クライアントの話すままについていくイメージです。そこで、ガイドと引き出すは何が違うかというと、ガイドはコミュニケーションスタイルで、引き出すは、プロセスの1つです。つまり、引き出すは、特定のコミュニケーションスタイルを指しているのではなくて、プロセスの1つであり、そのプロセスで行われる全般的な態度や方針を指していると言えます。MI-3(動機づけ面接 第3版)の上の第4部が引き出すで、両価性、チェンジトークと維持トーク、本人自身の動機づけを引き出す、チェンジトークに反応する、維持トークと不協和に反応する、希望と自信を引き出す、中立性を保ったカウンセリング、矛盾を拡げるという節の構成になっています。中立性を保ちつつ、チェンジトーク、動機づけ、希望、自信を引き出すのが「引き出す」という態度です。さらにこの態度は、MIのスピリットの1つでもありますね。カウンセラーがクライアントに何かを与えるのではなく、クライアントの中にあるものを引き出すのがMIのスピリット(精神、理念)の1つです。
- もしかすると、一般用語としての「誘導」と引き出すの違いが判らないということかもしれないですね。ガイドは誘導を含む、もしくは、誘導と重なる部分があると思います。これがガイドと誘導の違いです。完全に一致しないのかどうかは、「誘導」の定義がわからないと何とも言えません。ガイドや誘導がコミュニケーションスタイルを意味するとすると、それにに対して、引き出すは、プロセスや方針を指します。つまり、引き出す際にガイドや誘導を使うことがあるという関係です。そのため、違いといわれると、概念としてのレベルが違うということになるかと思います。
2. 本を読んで学習する限り、ミラーらは「来談者中心アプローチの歴史的系譜に位置づくもの」と述べているそうですが、原井先生などは「行動療法」と捉えているように思います。どちらが妥当な解釈なのでしょうか?
- どちらも正しいと思います。もともと依存症の認知行動療法の介入試験の統制群の処遇として使っていたものが有効で、そこから動機づけ面接が生まれたと聞いています。なので、もともと接点はあります。来談者中心のアプローチにチェンジトークを引き出す部分を加えたのが動機づけ面接なので、「来談者中心アプローチの歴史的系譜」というのは正しいです。一方、チェンジトークを強化して、維持トークを弱化しているともいえるので、行動分析的な説明も間違ってはいないと思います。個人的には、発話行動の行動分析はそう単純ではないと思うので、そのような説明はしないです。どちらかというと、面接者の発話を調整することで、クライアントの発話行動を変化させる刺激性制御かなと思っていますが、私も行動分析は専門ではないので、参考までに。
3. 逆説的にあいての意見を変えることは動機付け面接ではふさわしくないでしょうか?そんなに食べたいなら食べてもいいんじゃない?相手の不安を少しあおっているような気がするのですが、もちろん人を選んでいますが使ってしまいます
- MIにふさわしくないというのは、MI不一致な応答なので、基本的には許可を得ない説得や直面化です。それらに該当しないのであれば、ふさわしくないとは言い切れないかもしれません。あとは、スピリットに反しないかですね。その点、「食べたいなら食べてもいい」というのは、文脈によりますが、「タバコは減らさなくてもいい」とか「お酒の量は減らさなくてもいい」とは、基本的にはあまり言わないですね。なぜなら、スピリットのコンパッション、クライアントの福祉の尊重に反すると考えられるからです。ただ、ハームリダクションと言って、タバコやお酒を完全にやめるのではなく、害を減らすという支援の方向性も最近みなされつつあるので、その文脈で、「今すぐ、完全にやめる必要は必ずしもない」というような対応はありうるかと思います。 「相手の不安をあおる」に近そうなでいうと、ネガティブなチェンジトークを引き出すという関りは一般にMIでもあり得ます。「このまま食べ続けたとして、どんなことが気になりますか?」という質問などです。この流れで、「あまりないですね」に対して、「このまま食べ続けたとしても、特に問題は無さそうなんですね」と聞き返すということも一般にあると思います。「維持トークに対しては強めに返す、チェンジトークには弱めに返す」ということは、初級から中級の間、中級以上くらいで習うと思います。強めに返した方が否定されやすく、弱めに返した方が受け取ってもらいやすいからです。これに近いですかね。 ただ、そもそも、動機づけ面接では、特にクライアントの意見を変えるわけではないです。変えようとはしないです。クライアントの中にすでにある、変わりたい思いを引き出します。
4. 複雑な聞き返しをする目的は、何でしょうか?クライエントの言葉に対して、単純に、もう少し詳しく教えてもらうような聞き返しでもよいように思います。その中で、思考、感情を明らかにしていく。また、ロジャースで言う、明確化をし、自己探索を促進する働きかけなのでしょうか。ご教授いただければ幸いです。
- 重要な点、ご質問ありがとうございます。色々な答えができると思います。複雑な聞き返しをする目的は、端的にいえば、複雑な聞き返しが無いと、動機づけ面接にならないからです。動機づけ面接とは何かというと、1つは、チェンジトークを引き出すこと。また、MITIの評価項目でいえば、共感、パートナーシップのためにも複雑な聞き返しが必要です。行動カウントでも、「聞き返しが質問の2倍以上、かつ、複雑な聞き返しが単純な聞き返しよりも多い」のが、標準的なMIの面接として定義されています。もう1つ挙げるとすれば、スピリットですね。MITIと重なる部分はありますが、特にパートナーシップ、受容、引き出すために、複雑な聞き返しが必要と言えます。単純な気返しだけでは不十分です。 「クライエントの言葉に対して、単純に、もう少し詳しく教えてもらうような聞き返し」が、質問をするということでなければ、おそらくMIでいうところの複雑な聞き返しを意味していると思います。 「思考、感情を明らかにしていく。また、ロジャースで言う、明確化をし、自己探索を促進する働きかけなのでしょうか」については、実際そのようなことが起こっているとは思います。しかし、MIの目的は、上記のようにチェンジトークを引き出すとか、MITIに定義されている面接を行うこと、スピリットを体現することなので、複雑な聞き返しの目的も、上記のように説明されることになります。 もしかすると、こういったことが参考になるかもしれません。結局、複雑な聞き返しと単純な聞き返しは連続体ということです。当然、複雑な聞き返し寄りの単純な聞き返しも、単純な聞き返し寄りの複雑な聞き返しもあり得ます。 また、クライアントによっては、単純な聞き返し(もしくは、単純な聞き返し寄りの複雑な聞き返し)を行うことで、自己探索が進んでチェンジトークが引き出されるということもあるかもしれません。その辺りは、クライアントの特性や準備性によっても変わってくると思いますし、調整は必要かもしれませんが、標準的には、MIは、明確な複雑な聞き返しを重視しています。
5. 9/22デモありがとうございます。動機づけ面接でのゴール設定について、最初の主訴から、話を聞いていく中で、あえてゴールを主訴のところから変更する場合というのもあるものなのでしょうか?
- 動機づけ面接の標的行動とクライアントの主訴は必ずしも一致しないと思います。通常標的行動は実現可能な行動になります。例えば、クライアントの主訴が痩せたいとか、痩せるために毎日運動したいということだったとしても、フォーカスしていく中で、「運動しなくてはいけないと思っていたけれど、まずは、間食を減らすことから取り組むのが良さそうです」となることはありうると思います。 別のパターンで、モヤモヤをすっきりさせたいという主訴の場合、まずは、両価性な状態がないか、中立的に話を聞いていくことになります。最終的に、「モヤモヤというのは~したい思いと、~したい思いとが綱引きをしているような状態だったんですね」のような形で、両価性を明らかにするところで面接が終わることもあれば、話しているうちに、標的行動が見えてきて、具体的に何に取り組んでいくかという話になることもあります。
6. 複雑な聞き返しの断定的な言い方ですが、難しさを感じます。間違っていてもいいから、想像して伝えてみるというような感じでしょうか?例えば、「○○かなと想像したのですが、いかがですか?」のようなソフトな言い方ではない方が良いのでしょうか?少し勇気がいりそうです。
- すごく勇気がいると思います。通常カウンセラーは、あまり断定的な言い方はしないようにとトレーニングを受けていますからね。最終的にはバランスとかクライアントに合わせてということにはなるのですが、せっかく動機づけ面接を習うのであれば、動機づけ面接がなぜ断定的な言い方を好むのかという点を理解し、面接に応じて自由に断定的にもそうじゃないようにも応答できるようにトレーニングできると、より良いかなと、個人的には思います。「間違っていてもいいから、想像して伝えてみる」というのが、正にその通りです。「○○かなと想像したのですが、いかがですか?」という言い方は、まず、聞き返しではなく、明らかに質問になっていますね。「○○かなと想像しました」だと、聞き返しではなく、MIだと、コードされない、面接者の自己開示発言か、面接を進行するための発言(GI: 情報提供)と、コードされるかと思います。 ポイントは、なぜ「~と想像しました」ではなく、「~だったんですね」と伝えるかですね。1つは、共感的理解の観点で、前者だと、「面接者がクライアントが発言していない部分も含めてクライアントを理解している」というMIの共感的理解の基準を、弱くしか満たさないですね。MI共感的理解の基準を満たすのは、後者(聞き返し)で、それが当たった場合だと思います。もう1つのポイントは、クライアントの自己吟味を促したいということです。前者だとクライアントの応答、特に、準備性の低いクライアントの応答は、「そうですか…」だと思います。それに対して、後者だと、当たっていても、外れていても、何かしらのクライアントの自己吟味を促し、「はい」か「いいえ」の反応が引き出せるだろうと考えています。 慣れも練習も必要なので、動機づけ面接の研修では、繰り返し、繰り返し、聞き返しの基礎練習が行われますね。
7. 乳幼児(イヤイヤ期)の子育て中の親からの相談をよく受けています。イライラして怒ってしまう、、、と悩まれる方への対応にも、使える面接法かなと感じています。もし、感情コントロールが難しい親に対する動機づけ面接でのポイントがありましたら、是非、教えてください。
- 支援の方向性が2つあるだろうと思います。1つは、保護者の方に、動機づけ面接で支援するということで、もう1つは、保護者の方に動機づけ面接を教えるという方向性です。前者の場合、「感情コントロールが難しい親に対する動機づけ面接」ということになりますね。この場合は、通常の動機づけ面接なので、ポイントも一般的なポイントと同じになります。きちんと是認して、標的行動にフォーカスを当てていくという感じですかね。関わる時間をきちんととって、ちゃんと子育てをしようとするからこそイライラして怒ってしまうというところを是認したいですね。フォーカスですが、怒らないというのは行動ではないので、標的行動にはならないですね。怒らない代わりに何をするか。イライラしたらタイムアウトを取るとか、イヤイヤに対してどう対応するかということが標的行動になると思います。ポイントはその辺りでしょうか。 2つ目として、ペアレントトレーニングとしてMIを教えるという方法もあります。通常のペアレントトレーニングと同じように、保護者の方を労いつつ、子供とのコミュニケーションのためのスキルとして動機づけ面接を身に着けていただきます。例えば、イヤイヤ期の子供を、どう動機づけるか。子供の準備性はどの程度か、標的行動は何か、イヤイヤが出ているときにはどう応答したらいいかなどを予め考え、練習してから本番に臨むと、より希望通りの対応ができるはずです。
8. ADS傾向の子どもに対して、複雑な聴き返しが難しいというのはすごくよくわかります。記号や数字の好きなASD傾向の子どもにはスケーリングが有効かと思いますがいかがでしょうか。
- ASDにスケーリングというのは、白黒はっきりしているという面で親近感を持ってもらえるような気がします。記号や数字が好きだからというのも似たような感じですかね。ただ、MIにおけるスケーリングの位置づけは、単に重要度や自信度を数値化し、明確にするという程度の役割で、何か強力な介入ということではないですね。つまり、チェンジトークを引き出すという最大の目的に対する貢献度が少ないかもしれないという懸念はあります。もちろんスケーリングから今できていることを明らかにして是認につなげたりすることはできるだろうと思います。ただ、そこまでなので、スケーリングが何か大きな役割を果たすというよりは、単純な聞き返しと複雑な聞き返しの頻度を変えて、単純な聞き返しを多くするとか、重要度や自信度という概念的、感覚的なことではなく、何をすべきで何をすべきではないかという事実ベースの話を中心にするとか、モデルや図面など視覚的な手掛かりを使うといった何か根本的な調整が必要ではないかと思います。その点、ACTマトリックス(https://amzn.to/3qYeWS5 )なんかは、ASD向けのACTとして良さそうな感じなので、アレンジの部分で参考になるかもしれませんね。
9. 夫から精神的DVを受けていて困っているがそれがDVだと気づいていない。けども、どうしたらいいかわからないとの相談の場合ですが、まずは直面化に注意しなければと感じています。是認も必要かと思います。その上で、気づきを与えたいとき、ポイントになるような事があれば教えてください。
- この面接自体をどのように進めればいいかというのは、よくわからないのですが、MIではどう進めるか、注意すべきポイントはどこかというと、ご指摘のように、直面化しないというのはその通りですね。是認もすると思います。特に、夫と離れたくないとか、夫のDVを認めないことに関連した是認ですね。良い妻であることとか、夫を信じ、献身的であることとか。そういった点をきちんと認めた上で、ご本人が感じている、DVを受けることに伴うデメリットにも耳を傾けていくのが大事だろうと思います。事実ベース、聞き返しベースで、「実際にケガをして、病院に行かれたと。ただ、それで何か困ったとか、痛くて嫌だったというのは感じなかったということですね」「もうしないだろうと思うのと、そして、こういったことが続くのは、嫌だとは思われるんですね。それはどうしてですか?」という感じですかね。もう一つは、クライアントの準備性に注意して、DVを認めることがどの程度のハードルかを考えたいですね。場合によっては、DVを認めると、即、今の生活が壊れてしまう危機感とか、報復への心配もあるかもしれません。その辺りを探りながら、丁寧に許可を得て情報提供を行って、クライアントのペースで標的行動を探っていくというのも重要になると思います。
10. 子どもの「やりたいけどめんどくさい」に対しても有効でしょうか?挑戦したいことがあるものの、youtubeを見てゆっくりしたい気持ちが勝つ様子です。
- 家族間のコミュニケーションにMIをいかに応用するかは挑戦的なトピックだと思います。つまり、有効だろうとは思いますが、まだ情報が少ないのです。ペアレンティング全般にそうですが、構造化の問題がありますね。言い方を変えると、目のまで子供が「やりたくないけどめんどくさい」と、Youtubeを見ている場面で介入すべきかという話です。創造ですが、それよりも優先すべきことはあるような気がします。例えば、計画段階や定期的な目標設定の場面でMIを使うとか、日々の生活の中で是認を増やすといったことです。本人が支援を望んでいないときに介入してもあまり良いことはなさそうですね。 薬剤師さんの研修でも話題になりますが、お客さんがレジで薬を受け取って早く会計して欲しいと思っているときに、いくらMIをしたところで、面談になんてなりっこないわけです。「質問ありますか?あったらいつでも聞いてくださいね。置きお付けてお帰りください」とか「薬続いてますけど、結構しんどいですか?」くらいのやり取りがちょうどいいわけです。上記の子供の例でいえば、「~(挑戦したいこと)について、何か手伝えるっことはある?」と質問するくらいがちょうどいいかもしれません。
11. あまり話さない方や,話が堂々巡りになる方に対して,動機づけ面接を行う際に,どのような点に留意されますか。
- 対応が難しい場面ですね。基本的にはいずれも複雑な聞き返しで対応することになるだろうと思います。あまり話さない方の場合は、その人が何を考えているかをカウンセラーが想像して、聞き返しを行うことになります。話が堂々巡りになるのは、特に、チェンジトークにフォーカスした聞き返しが行えていない可能性があります。複雑な聞き返しに加えて、面接のプロセスも意識するといいかもしれません。また、変化に向けた準備性がどの程度あるかという点も考慮したい所です。特に、あまり話さない方は前熟考期の可能性もあるので、準備性に合わせた標的行動の設定が必要だろうと思います。
12. 強みを考える機会を設けたのですが、私に強みなどないと傷付ける結果になりました。依存症に向き合いたくないと仰っています。トラウマの話をされるのですが、それはそれでしんどくなる一方です。私としては今に目を向けてもらいたい。今後のアプローチを考えた時私の考え(傷つけた事を含めて軌道修正したいと)正直に話す事は有用でしょうか?
- 各々の背景もあると思いますし、これという正解があるとは限らないので、参考までに聞いてもらいたいと思います。まず、MIのスピリットの「思いやり」は、クライアント福祉を優先するということです。それは、必ずしも、面接者がどうなって欲しいかと同じとは限らないかもしれません。なので、MIをするとなると、今に目を向けてもらうが標的行動になるかどうかはわからないです。また、「傷つけたことを含めて軌道修正したい」と伝えることについても、有用かどうかをMIの観点から判断するのも難しそうです。一般的にいって、強みについて確認したときに、「強みはない」と答えられることは、珍しいことではないと思います。その場合は、「強みはないと認識していること」に対してノーマライズ(強みがないと思うのは当たり前なことで悪いことではないと伝える)した上で、直接聞くのではなく、好きなことやできていることの話を聞きながら、強みを探索するようにすると思います。 ただ、このような対応は、必ずしもMIかどうかはわかりません。そもそもMIではあまり「強みを質問する」ということはないように思います。
- 1つ言えるとすれば、「軌道修正したい」というのは面接者の希望ですよね。MIでは、面接者の意向ではなく、クライアントの意向に基づいて面接を進めていきます。つまり、1つの可能性としては、クライアントに、傷ついたという回について振り返ってもらい、それも踏まえて、次回の標的行動、面接のゴールについて話し合うことになるのではないかと思います。
- トラウマに関しては、話したいようなら話していただいてもいいかなとは思います。それはそれとして、MIとして考えたいのは、標的行動は何かです。それは、今に目を向けることとか、それをより具体的にしたことかもしれないし、そうではないかもしれません。標的行動が定まれば、場合によっては、トラウマの話をすることは、維持トークかもしれません。準備性も考慮に入れつつ、トラウマの話は受け止めつつ、チェンジトークを増幅させることを目指すことになります。
13. 知的障害があり,何度も同じ話を繰り返す方や,理解が良好でない方に対しても,動機づけ面接は有効ですか。IQどのくらいあれば動機づけ面接が使えますか。
- 知的障害に限らず、ASDや統合失調症などの、特定の認知特性を持っている方に対してMIを用いる場合には、注意が必要です。特に、複雑な聞き返しはかえって混乱させてしまうことがあります。知的障害においても、その辺りの調整は必要だろうと思います。IQがどれくらいならどうかということは、一概には言えません。対話的な支援が可能な程度ということになると思います。論文によると、軽度知的障害の物質使用の問題に関して、動機づけ面接は治療への動機づけを高める効果は認められているが、全体的には研究が不足しているようです(van Duijvenbode, N., & VanDerNagel, J. E. (2019). A systematic review of substance use (disorder) in individuals with mild to borderline intellectual disability. European addiction research, 25(6), 263-282.)。中等度から重度に対しては、対話的な支援が有益なのかどうかという点から検討すべきかもしれません。
14. 動機づけ面接が特に有効な方はいますか?(エビデンスでも感覚的にでも)例えば、①対外的にチェンジする必要性があることが明白(依存症など)にも関わらず対象者はチェンジの意識に批判的な方、②対象者自身がチェンジの必要性を感じているもののなかなかチェンジできない方、③本人の問題意識が全くない方(批判的でも意欲的でもない)
- ①~③はいずれも有効だろうと思います。エビデンスとしては物質関連や嗜癖性障害、HIVや糖尿病の治療アドヒアランス、運動や食習慣などの行動変容の問題などがあった気がします。ぜひ最新の英語のレビュー論文をチェックしてみてください。また、英語の書籍のシリーズがあります(https://www.guilford.com/browse/psychology-psychiatry-social-work/applications-motivational-interviewing-series )。これを見ると、ヘルスケア、アスリートのコーチング、思春期や若者、学校、糖尿病、CBTとの併用、グループ、組織の変革、栄養と運動、リハビリと復帰、ソーシャルワーク、不安の治療、心理的な問題など、様々なトピックの書籍が出版されているのがわかります。
15. 集中講座のような研修で、オンラインで行うところはありますか?遠方なため、会場での参加が難しいのでオンライン研修があるなら、是非参加して勉強したいと思いました
- 今年の集中講座はオンラインだったようですが、来年からはまた現地開催なんですね。すぐには思いつきませんが、地域の学習コミュニティの研修や、動機づけ面接協会、チェンジトークジャパン、その他の研修などチェックされると、オンライン研修があるかもしれませんね。企画していただければ、条件によっては、1日ずつぐらいならご協力します。連日は厳しいです。また、レクチャーや演習の説明の部分は動画にして使いまわせるようにするとか、オンライン研修向けの構成を考えるといいですね。問題は、参加者があまり理解していない状態で、ファシリテータが少ないと、演習の管理ができないということです。一方で、常に講師のコーチングが必要というと効率が悪いので、例えば、演習の説明と代表グループの演習へのコーチングの部分を動画にして、その部分をみんなで視聴して、その後、グループに分かれて自助的に演習を行うような、練習会が頻回にできると有益だと思います。
- 自助会のポイントとして、まず、答えはないし、答えを知っているのはクライアントさんだけだということがあると思います。面接スキルは、暗中模索するしかないですね。MIの場合はMITIによる評価という一定の指針があるので、たまにそういった客観的な評価やSVを利用するといいと思います。もう1つは、批判しないし批判を求めないということです。MIの演習では、振り返りも、MI的に行います。ダメな点を指摘したり(直面化)、勝手にアドバイスしたり(許可を得ない説得)はしません。是認、是認、是認。とにかく他者のいい部分を見つけて指摘します。あるいは、質問や、相手の考えを知るために聞き返しを行うのはいいと思います。ただし、支援者ー被支援者の関係ではないので、聞き返しで誘導したりということは、控えた方がいいと思います。この辺りの共通認識を事前に確認しておいた方がいいかもしれませんね。
16. さきほど少しお話に出てきた不協和になった場合、どのように対応していかれるのか教えていただきたいです。
- おそらくあらゆる対応は、「複雑な聞き返し、是認、準備性への配慮と変わりたくない思いを受け止めつつ、変わりたい思いを引き出す」です。MIは、クライアントや面接者の応答に着目するので、「不協和になった」という表現はあまりしないかもしれません。クライアントから不協和を表す発言、つまり、関係性に対するネガティブな発言があった場合の対応ですね。「ふざけんなお前なんかの面接が受けられるか!」「すみません。何か、気に障ることがあったようですね」「そうだよ!」「言いづらいことを正直に話してくださりありがとうございます。もしよろしければ、何があったか聞かせてもらえますか?」「知らねーよ。自分で考えろよ」「自分で考えればわかるようなことなんですね」「・・・」「~に対して、~と感じられているのでしょうか」… 一例をあげるとこんな感じでしょうか。基本は聞き返しなので、聞き返しの練習と、不協和に対するバッティング練習(グループでやる不協和対応の演習)などを行われるといいと思います。
17. 今回の動機付け面接を受けてみて利用者の考えを変えさせようとしてしまっていたことに気づきました。
- 大事な気づきですね。間違い指摘反射が出ていたということかもしれませんね。MIのスピリットの1つは「引き出す」で、考えを変えるというよりは、考えを引き出すことを目指したいです。
18. 想像して「こうかな?」と思い、聞き返した際、「わかってもらえてないですね」と返されてしまい、焦ったことがあります。もしそう返されたとき、先生はどのように対応されますか?
- 「わかってもらえてない」「はい」「というと?」…という感じですかね。複雑な聞き返しが外れることは、当然ながら普通にあるので、あまり気にすることではないと思います。複雑な聞き返しの的中率が行動変容を予測することもないと思います。むしろあまりあて過ぎても気持ち悪いですよね。予知能力者みたいで。注意したいのは、この発言が不協和発言なのかどうかです。つまり、単純に聞き返しを外したということではなくて、そもそも関係性づくりや面接全体のやり取りが上手くいっていない可能性もあります。その場合は、「関わる」の段階から丁寧にやり取りを積み上げ直すとか、きちんと是認をするという立て直しが必要かもしれません。
19. 障がい者虐待の不適切支援として利用者の意志と違うことをさせるのは不適切とあるのですが、強要とまではいきませんが、心理教育をして想いを変えさせることは不適切支援にならないかと考えて時々ジレンマを感じています。
- 非常に重要な点だと思います。動機づけ面接では、それを正当化する根拠として、スピリットにコンパッションが入っています。つまり、クライアントの福祉を第1に考えるということです。そのため、動機づけ面接では、禁煙しなくてもいいですよとか、お酒の量は減らさなくてもいいですよとは、基本的には言わないと思います。それは、クライアントが望んだとしてもです。クライアントはクライアント自身の専門家ですが、面接者には、特定領域の専門家として、意思決定をする責任があります。MIの面接は、対等な関係で行われるものなので、クライアントに迎合する必要はありません。クライアントの福祉のために、短期的には、クライアントの希望とは異なる方向に面接を誘導しようと試みることは、当然ありうることだと思います。しかし、100%クライアントの意志に反するかというと、そうではなく、何事にも両価性があるので、基本的には、クライアントの中にあるチェンジトークを引き出すことになります。整理すると、MIにおいて、面接の方向性を調整する役割を担っているのは、面接者です。クライアントが望んでいなくても、クライアントの福祉のために必要な方向に面接を進めようとします。しかし、パートナーシップがあるので、MIでは、面接者が勝手に面接を進行することはできません。クライアントの同意を得たうえで、その方向に進んでいくことになります。
20. 先ほどのデモでは、先生に比べてCLさんの方がたくさんお話されていたように感じましたが、オープンクエスチョンが苦手な方に対してはどのようなアプローチができるでしょうか。
- 21日のデモに関する質問ですね。面接者よりもクライアントがたくさんしゃべるというのは、MIが上手くいっている場合の特徴の1つだと思います。オープンクエスチョンが苦手な人に対しても、オープンクエスチョンをしますかね。どうして苦手かにもよるかもしれませんが。とりあえず聞いてみて、沈黙が続いて、「~な感じでしょうか」と複雑な聞き返しをするという対応かと思います。場合によっては、オープンクエスチョンを使わず、クローズドクエスチョンにして、返答に対して複雑な聞き返しをするという展開もありうるかもしれません。
21. クライアントさんが変わりたくない思いを話された時、変化から遠ざかるかんじがして焦ってしまいます。落ち着く方法などありますか?
- 維持トークや不協和(関係性に対するネガティブな発言、もうやりたくないなど)の発言をされると、焦りますよね。1つの方法としては、ワークショップなどで練習することです。MIには様々なマイクロ練習やエクササイズがあります。維持トークや不協和に対して落ち着いて聞き返しを行っていくこともスキルなので、その部分を意識的に練習されるといいと思います。具体的によくやる演習としては、5人組ぐらいで、1人が面接者役で、他がクライアント役。クライアント役が次々と不協和の発言をします。それに対して面接者役は、次々に打ち返していきます。例えば、「またあんたかよ!」→「今日は別の方が良かったんですね」、「早く帰りたいです」→「気乗りしない中来てくださりありがとうございます」などといった感じで、どんどんやります。基本は複雑な聞き返しなので、複雑な聞き返しが呼吸をするようにできるようになると、維持トークへの応答もやりやすくなるかもしれませんね。
- 加えて、面接内のやり取りを俯瞰してみるという視点もあると役にたつかもしれません。今は維持トークだな。それに対して自分は単純な聞き返しで応答しているとか、維持トークがしばらく続いているから、複雑な聞き返しでちゃんと理解を示してあげた方が収まるのかなとか、がっつり維持トークを聞いてあげると、チェンジトーク出てくるかなとかです。維持トークは、それが無くなれば行動変容できるということをクライアントさんが教えてくれているということなので、チェンジトークの種のようなものかと思います。
22. 自分に置き換えながらデモを聞いていましたが、質問されることで自分でも気づいていない気持ちに気づくことができそう、と思いました。
- 21日のデモに対するコメントですね。動機づけ面接では、クライアントが言及していない点について面接者が理解を示しているということが、「共感」の指標として評価されます。このコメントはクライアントの体験についてのコメントですが、質問をして、チェンジトークを探り、さらに、クライアントの発言からその先を想像することで、一層、新しいことに気づくという体験が、その後のチェンジトークの発言につながるかもしれませんね。
23. デモありがとうございました。面接の中でポジティブリフレーミングや矛盾掲示を効果的に活用されているなと感じました。
- 21日のデモに対するコメントですね。「ポジティブリフレーミング」というのがそれを指しているのかどうかはわかりませんが、クライアントの行為や意図の前向きな側面を拾って聞き返す、リフレーミングするというのは、是認の一種ですね。矛盾掲示については、MIの中では「矛盾を拡げる」という言葉があり、動機づけ面接第3版上の最終章、18章で解説されています。目標と現実のギャップは動機づけの動因の1つであり、MIでも意識されている点です。ただし、この章で解説されているように、矛盾を抱えるのは簡単なことではないので、是認やあるがままの受容が前段階として必要です。また、大きすぎる矛盾、変化への自信や効力感を伴わない矛盾は、逆に意欲をそぐことになります。その上で、特に前熟考期のクライアントに対しては、「矛盾はどこかに潜んでいると想定して探索すること」が有効なことがあります。
24. 感情の部分についてあまり聴く感じではないように思いましたが、方向性をはっきりしていく感じでしょうか
- 21日のデモを見ての質問ですね。1つは、私が下手だったという可能性は考えられます。感情面を聞くのが上手いカウンセラーがMIを使ったらまた違った雰囲気になっていたかもしれません。MIは感情を聞かないということではないです。感情は行動変容との関連でとても重要な要素だと思います。行動変容したい思いや、行動変容できないことに対する懸念や不安などは、よく表明されることがあります。しかし、感情を聞くことが目的ではないというのも事実です。MIのプロセスの中に、「感情を聞く」「感情を同定する」というプロセスはありません。一方で、「フォーカスする」というプロセスはあるので、「方向性をはっきりさせる」というのは、MIに標準的に備わっている段階の1つです。付け加えるとすると、「その時どんな気持ちだったのですか?」とは、MIではあまり聞かないかもしれません。それよりも、クライアントの発言を受けて「それで~という気持ちになった」「~に対して不安を感じている」などと、聞き返しを行っていくことが多いと思います。
25. 面接のデモ、ありがとうございました。今回のように人の話を聞き入れてくれる方ばかりではないかと思います。「でも」「だって」が多い方には対応の仕方はあるのでしょうか?
- クライアントによるというのは、心理面接全般に言えることかと思います。ただ、1つお伝えできるとすれば、MIの面接というのは、「でも」「だって」という反発的な言葉が出てこないものです。それでいて、クライアントとしても、話したいことが話せなかったという思いを抱かせないのが、MIが上手くいった場合だと思います。21日のデモでも、実は維持トークは出ていました。あまり行動変容の必要性を感じていないという部分です。そこを、今はまだ感じていない。何が起こったら、必要に迫られそうですか?数年以内にはそういうことが起こりそうということですね。このままいっても、少なくとも数年後には、必要性が高まって行動変容が起こるというのはありそうだということですね。と、チェンジトークの方向に話を持っていっています。そのため、「でも」「だって」が多いとは認識されなかったという可能性もあります。
- 前置きが長くなりましたが、質問にお答えすると、MIの応答は、基本的に複雑な聞き返しです。OARSの4つしか選択肢がないので、そうなります。戦略としても特に何があるわけでもなく、「変わりたくない思いを受け止めつつ、変わりたい思いを引き出す」に尽きます。あとは是認と準備性への配慮ですかね。「でも~なんですね。それは困りましたね」「その状況をどうしていきたいと思われますか?」「あれをやってもダメ、これをやってもダメ、そんな中、何とか状況を変えようと懸命に試行錯誤してこられたんですね。大変なことだったと思いますし、それを続けてきてくださったことがとてもありがたいし、それができることが、あなたの強みなのだろうと思います」「他に今できていることには、どんなことがありそうですか?」などと、面接を展開することができるのではないかと思いました。
26. カウンセリングを続けると、やめられると思いますか?
- 21日のデモを受けての質問でした。クライアント役の方のお返事としては、励まされて自信が高まるのを感じたので、実際に行動を開始した後にまた受けると、さらに、行動を維持できる可能性が高まるような気がするというお返事だったと思います。
27. 治療の場面で、何ができそうですか?とひたすら問い詰められるように聞かれたことがあります。質問を繰り返されることで苦しくなることはありませんか
- もしそうなっているようなら、MIの面接はうまくいっていないということかと思います。まずMIでは質問はあまり使いません。聞き返しの頻度の半分以下です。次に、MIではパートナーシップや受容を重視するので、面接をどう進めるかもクライアントに決断する権利があります。その点で、苦しんでいるということはあまり自律性が尊重されていないように見えます。あとは、是認が足りていないということがあるかもしれません。十分是認されて、前向きな状態なら、「何ができそうですか?」と聞かれて苦しむことはあまりないように思います。「ひたすら問い詰められる」というのも気になりますね、MIではそういうことはしないですね。できることはないと言っているのにそうしているならば、場合によっては「直面化」として、MI不一致の応答と評価されるだろうと思います。応答の一例として、「できそうなことはない」と言われたら、これまでなにか取り組んだことはありますか?から、色々と取り組んでくださってありがとうございます。そこが大事なところで、あなたの強みだと思いますと返せるかなと思います。クライアントの準備性に合わせるのも重要な要素ですね。
28. 動機づけ面接のワークショップとかはどれがいいですか?本はたくさん見つかりますが、ワークショップはどうやって探せば良いのでしょうか
- 重要な質問、ありがとうございます。研修は学会、協会、地域の学習コミュニティが一般的ではないかと思います。寛容と連携の日本動機づけ面接学会(https://gadjasmine.wixsite.com/jasmine )、動機づけ面接協会(https://motivationalinterview.jp/ )、地域のコミュニティはみやぎ動機づけ面接協会勉強会(https://miyagimi.jimdofree.com/ )など各地にあります。ゆるーい思春期ネットワーク(https://blog.goo.ne.jp/midou63imade )は、磯村先生が積極的に情報発信されています。チェンジトークジャパン(http://ctjapan.jp/ )もよく研修をしていますね。わたしは、月一で練習会を開催しています(https://ppi.tokyo/online-mi/ )。